『ひとりごとは創作の始まり』〜「わたしは全然不幸じゃありませんからね!」, 谷口奈津子(著), エンターブレイン〜

創作の『おもしろい』には、天才的な発想とか、抜群の表現センスとか、斬新な的確さとか、いろいろあるだろうけど、それらはすべて作者の”ひとりごと”からはじまると思う。

誰に頼まれたわけでもなく、誰かのためでもない。観客がいようがひとりの時間だろうが関係ない。作者の中で抑えきれずに溢れ出す“ひとりごと”が創作の源泉であり、それらが手を変え品を変え、私たちを楽しませる作品となっていく。出来上がった作品への批判も意見のひとつだろうが、それが「もっと上のものを私は知っている」であるならば「もっと上のものを私が作る!」という方が断然カッコいい。あたりまえだけど何事もやったほうが偉い。

「わたしは全然不幸じゃありませんからね!」, 谷口奈津子(著), エンターブレイン

そして谷口奈津子氏のひとりごとの面白さはホンモノである。売れない時代の自意識過剰さやまわりとの関係、困窮生活の愚痴。こうならべるとありきたりな(当時は)売れない漫画家志望女子の日常報告に陥りそうなところを、彼女の発想の非凡さがぶち壊していく。求める幸せこそありきたりだが、そこへ向けられた彼女のバイタリティがすごい。恰好も全くつけていない。まっすぐで、かつ偏執的である。

彼女はネタを提供してくれる友達にも恵まれている。男女を意識しすぎないフラットな関係や会話も読んでいてすがすがしい。皆、お金はなくても好きなことをやる主義の人たちだからなのかもしれない。

第三章「レバ刺しとわたし」はここだけで独立した絵本であるかのように美しい愛の物語である。それにしても谷口奈津子氏は泣き顔の描写がうまい。さまざまな感覚や気持ちをきめ細やかに記憶しているんだろうなぁ、と思う。