数年前、母親が他界し人生初の大々的な断捨離をした。母は昭和ヒトケタ生まれで物がない時代に育ち、なかなか物を捨てられないうえに思い出の品は取っておくタイプの人だったので、姉と私の幼少時からの図工作品やお出かけ用の靴なども大量に残っていた。
「見仏記」 いとう せいこう(著), みうら じゅん(著) 角川文庫そのなかに京都・奈良修学旅行時の自由研究・絵付きレポートがあった。今見ると資料を読んでグっときたところをまんま書き写したつまらないものだった。中学時代は美術部とは名ばかりのアニメ/漫画研究で忙しかったからな。言い訳はさておき、即効捨てた。
さてそこで本書である。いとうせいこうとみうらじゅんによる仏像を巡る旅・人気シリーズの記念すべき第一冊目だ。熱の入った完成度の高い自由研究と絵日記。二人とも大人でその道のプロだから当たり前ではあるが。この二人の掛け合いの面白さはユニット「ROCK'N ROLL SLIDERS」のトークイベント「ザ・スライドショー」でも有名だが、それはこの共著「見仏記」でもいかんなく発揮されている(のちに映像でも見られるようになった。そちらも期待を裏切らない)。
実際、学校で本当に気の合う友達に出会う確率なんて低い。また、そもそも思い出を作れ!的旅行自体がナンセンス。本当の意味で記憶に残る面白い修学旅行をしたいなら、彼らのように大人になってから出会う趣味と気の合う友達とメモ帳もしくはスマホ片手に出かければいい。そこにほんとうの楽しさがある。
ミュージシャンの日常はひたすら修学旅行と文化祭の繰り返し、というのは確か及川光博の名言だが、それは楽しいことだけしかやらない、というよりは観客に楽しさを演出し続けなくてはならないという強迫観念をも内包している(気がする)。『楽しくなくちゃ飽きられる』楽しさで魅了するアーティストの宿命でもある。本書はなにごとも楽しくやり続けられることこそが才能なのだということにも気づかせてくれる。非公開の秘仏も多いが、この本片手に二人の足跡を追う旅もイイかもしれない。